山本 舞(ヤマモト マイ)
グローバル・スタディーズ研究科 地域研究専攻 博士前期課程
| 備考 | ||
| 期間 | 2019年8月6日〜8月27日 | 調査期間中盤にデング熱に感染したため、当初の調査予定日数よりも短縮された。 |
| 国・場所 | インドネシア スラバヤ (シドアルジョ、グレシック) | 同上、デング熱により入院を要したため、その他の調査地へは行けなかった。 |
| 目的 | インドネシアのエビ養殖が盛んな地域における、エビせんべい(以下、「クルプック」という)と発酵調味料(以下、「トゥラシ」という)家内工業について調査をする。 | |
| 対象 | 2016年より調査のために訪れている村内で、家内工業を営んでいる女性。 | |
調査内容について振り返る前に、調査計画について数点反省すべき点があると考えた。第一に、調査実施期間の検討不足に関して、である。例年、筆者は夏季休暇後半(8月末から9月頭)より調査を開始するが、調査内容を秋学期開始前に時間をかけて検討したいという思いから、この度は休暇前半に調査を実施した。しかし、その際に、インドネシアの全国民の9割近くが信仰するイスラムの犠牲祭の日程と、同国の独立記念日について考慮することを全く忘れてしまっていた。今年の犠牲祭の期間は8月11日から14日、続く15日と16日も、8月17日の同国の独立記念日ために多くの店や人が休みを取り、故郷へ帰省するため留守にしている家庭もあったため、調査を実施することが困難であった。調査対象者次回の調査より、現地における基本的なイベントが催される期間を必ず確認し、そうした時期を極力避けたいと思う。
第二に、調査地の事前の細かな選定不足についてである。これまでの調査でずっとお世話になってきた方に、調査対象物であるクルプックとトゥラシの生産で有名な土地として、シドアルジョおよびグレシックの2つの街を挙げていただいた。しかし、これら2つの街の中でも、筆者が調査したいと考えていた製品の生産地は原材料のエビや魚が手に入りやすい沿岸地域が主であったため、滞在先の自宅から調査地へ移動するために、想像以上に多くの移動時間を要した。渡航以前に、調査対象の製品の原材料については把握していたので、もう少し慎重に調査地と滞在先を選ぶべきであったと反省している。
【調査内容報告】
本調査では、インドネシアの大衆食として知られるクルプックと大衆的な調味料の一つであるトゥラシを家内工業の一環として生産する人々やその暮らし、また原材料である魚やエビ類の入手経路等に関して調査することを目的とした。先述した通り、犠牲祭の日程と独立記念日が近い時期にあったため、村の人々も慌ただしくされており、じっくりとインタビューさせていただけたのは3名のみであった。内1名(男性)はトゥラシを、2名(両名共に女性)はクルプックを生産している。
【トゥラシ】
本報告書内に既に幾度か登場しているトゥラシとは、現地語でudang jembretという、おそらくはアミという軟甲網オキアミ科の生物を原材料とする発酵調味料である。英語や日本語では学術名を特定できていないため、今後の課題とする。(収穫後しばらくするとその体色を濃い赤色に変化させたことからも、アミ類の一種であることは間違いないと考える)
今回、インタビューを受けてくださったのは、シドアルジョ内の伝統的な粗放エビ養殖池の小作人であり、普段は池のすぐほとりにある小屋で妻と娘と暮らす50代の男性である。通常、彼は3名ほどの日雇い労働者とともに池の魚やエビの収穫作業を行うが、当該のアミ類が手に入った際にはトゥラシをつくり、それらを近くの市場で売って生活の足しにしている。原材料であるアミ類をどこから手に入れるのか尋ねると、エビが養殖されるまさにその池で獲れるのだと答え、収穫の様子を見せてくれた。アミを獲る際に使う道具は彼の手製のものであり、Tの文字のように二股に分かれた木の枝の先に、弧を描くように割いた竹をしならせて結びつけ、できあがった扇型の部分に目の細かな網がくくりつけられている。この道具を用いて、池の水面近くを泳ぐudang jembretを獲る。体長はおよそ1ミリから2ミリ程度である。たいてい、明け方前に収穫をするが、それは日が高くなると収穫が難しいからだと彼は言う。
また、彼によると、ブラックタイガーやバナメイエビとは異なり、udang jembretの味は風味がほとんどなく、味つけをしないまま食しても美味しくないそうだ。そのため、トゥラシ作りではこの小さなudang jembretの体色が黒に変化するまで天日干しにし、完全に乾燥させた後、味付けをする必要がある。乾燥したアミにニンニク1かけ〜2かけ、砂糖、塩、水を加えるそうだが、これらの分量は彼自身の目分量、感覚で決まっているそうだ。出来上がると、乾燥させた直後にはなかったトゥラシ独特の刺激臭がかおる。彼が作ったトゥラシは基本的に1キロ100,000Rp(1Rp=0,0076円/2019年9月25日現在)で売るそうだが、最終的な味で値段も変わるという。誰がどのように値段を決めるのか、聞きそびれてしまったため、次回の調査では確認したい。

【クルプック】
クルプックとは、インドネシア国民の食卓に欠かせない、魚やエビのすり身とキャッサバ粉とを混ぜ合わせて作られる食べ物である。また、日常の食卓に並ぶだけではなく、結婚式の参加者へのお土産としても用意されることがある。今回の調査でお会いした2人の女性は、両名とも魚を原料としたクルプックを生産されていた。日本のせんべいと似ているが、クルプックの方がサクッとしたより軽い食感である。また、材料や調理工程は聞き取りをした両名と、現地の図書館で読んだ書籍で紹介されていたものと大きな違いはなかった。主な材料はキャッサバ粉、ニンニク、塩、砂糖、卵、魚あるいはエビの身、そして味の素である。調理工程に関しては、最初にインタビューを受けてくださった女性(以下、A氏とする)の元で筆者自身も体験させていただいたので、それを元に振り返る。
クルプックの材料
キャッサバ粉1kg、ニンニク1つ、塩25g、砂糖15g、卵1つ、味の素適量、魚のすり身250グラム(A氏によると重さ1kg程度の魚から、頭や骨を除くと250g程度の身が残るとのこと)、水適量
A氏は主たる材料の一つである魚を店で購入するか、養殖池で働く人々から余り物としてもらう/買い取るのが普通であるが、クルプックを注文した客が自身で魚を持ち込んできた場合にはそれを用いる。魚の下処理を行うのは自宅であるが、その切り身をすり身にするのはシドアルジョの市街地にある市場内の業者に頼むという。
クルプック調理工程
A氏は週5日を自宅の近くにある幼稚園で働いているため、仕事の始まる前、早朝にクルプックを作る。その際、A氏の母、近所に住む親戚(1〜2名)、時にA氏の長女の4〜5名で作ることが普通だという。

クルプックを食すためには乾燥したタネを油で揚げる必要があるが、A氏は揚げる前の状態のクルプックを袋詰めにして販売している。彼女の作ったクルプックは家の軒先か市街の別のお店で場所を借り、およそ68.000Rp/kgで売る。 無論、クルプックの原材料である魚やエビの価格が上がると、クルプックの販売値も高騰する。乾燥させたクルプックは長期間保存できるため、魚があればある分だけクルプックを作りたいとA氏は話すが、魚が手に入らない時にはクルプックは作れないため、収入もまちまちであるという。また、クルプックの作り方は結婚後に義母から教わったという。当時A氏は20歳頃であったというが、この時からすでに現在使用しているアルミ製の鍋(クルプックを蒸す用)があったという。
また、先述した通りA氏は乾燥させたクルプックを販売するが、それは揚げる前の状態で売る方が保存も効くという理由の他に、自宅で揚げる作業を行うと、労力と収入が見合わなくなるという理由もあると話した。一方、インタビューを受けてくださった別の女性(B氏)は軒先でごく小さな食料品店を営んでいることもあり、乾燥させたものと揚げたクルプックの両方を販売している。この他、グレシックという街で出会った女性は、A氏のような人々が販売する乾燥クルプックを購入し、自宅で揚げ、それらを近隣住民に対して、あるいは地域の催しものがある際などに販売している。クルプック売りも様々である。
【まとめ、今後の調査の展望】
今回の調査を経て、エビ養殖の盛んな地域で行われるトゥラシおよびクルプックなどの家内工業を営む人々は、主たる収入源を得るための仕事に就いており、その仕事の合間を縫ってこれらの製品を作っていることを確認することができた。その生産量は手に入れることのできる魚やエビの量によって変動するため、A氏とB氏によると、最も販売量が多かった月と少ない月では月収2万円程度の差があると話してくれた。
また、調査期間後半にとある養殖池でエビの加工工場を経営する男性に出会った。彼によると、加工工場で働く女性たちの中には廃棄物となるエビの殻や頭を2,000Rp/kgで買取り、トゥラシやクルプックを生産、販売している人々がいるという。工場では「不要」のものから、利益が生まれているそうだ。これまでのエビ養殖の研究では触れられてこなかったことなので、次回以降の調査でも引き続き情報を収集したいと考える。
最後に、今回の調査期間中にはデング熱に感染し入院を余儀なくされたことで、フィールドワーク・サポート申請時の計画とは大きく異なった調査となったことをお詫び申し上げる。今後の調査では、そうした感染に対する予防を徹底するよう心がけたい。