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院生のフィールドレポート

キューバ / ハバナ

報告者:

梶原 光莉(カジワラ ヒカリ)
グローバル・スタディーズ研究科 地域研究専攻 博士前期課程

調査・研究課題名:
キューバの教育政策に関する資料収集及び情報へのアクセス獲得
ハバナ大学図書館にて。間にあるポスターに写っているのはフィデル・カストロ。
ホセ・マルティ国立図書館の近くにある看板。

 この報告書は、2019年8月31日から9月20日にかけておこなった、キューバのハバナでの調査について報告するものである。今回の渡航では、キューバの教育政策という筆者の研究テーマに則し、第一の目的であるスペイン語の習得と並行して、資料収集と人脈形成という二つの目的でおこなった。キューバに関して閲覧できる資料や文献には限りがあるため、この二点は今後の調査のためにも必要であると言える。また、今回の渡航は次の春季休業中にもフィールドワークを行うことを念頭に置いたものである。

ハバナ大学のスペイン語コース受講

 キューバを研究の対象地域として設定するにあたり、スペイン語の習得は不可欠であるということ、また、教育機関と通じることで、今回の調査の目的である資料収集やこの分野の研究へのアクセスを図ることが期待できるという理由から、ハバナ市内にあるハバナ大学でのスペイン語コースを3週間受講した。実際の教育現場での経験ということで、筆者の研究内容に関係している発見もいくつかあった。それについてここで何点か言及する。
 キューバでは国民は小学校から大学まで教育を無償で受けることができるが、非スペイン語話者がスペイン語コースを受講する場合も、例えば3週間のコースは240CUC(1CUC=108,32円)、4週間のコースは300CUCである。この受講料が理由でスペイン語を学ぶのにキューバを選んだと話す学習者は何人もいた。実際に受講してみると、教育水準が高いと言われるキューバの教育現場の特徴にも触れることができた。クラスは10人前後の少人数制で、横に長い教室で生徒は横一列に座る。このため、全員が教師と近い距離で授業を受けることができた。授業はパソコンやテレビを使って進められ、動画を見たり音声を聞いたりしたこともよくあった。テキストは恐らくハバナ大学のスペイン語コースオリジナルの、印刷したものをホッチキスでとめた冊子で、使い回しのため授業のたびに配られ回収された。このように電子機器を活用しなるべく消耗品を使わないようにするのは、物資の不足が深刻なキューバならではの授業スタイルであると感じた。
 授業最終日には当コースの修了証書を受け取った。今後はキューバでの語学の習得を確認するために、DELEスペイン語検定を受ける予定である。

今後の研究に活かすための人脈形成

 キューバの研究において、国外からは捉えづらい現状を把握するため、また現地調査の際に事前に情報を収集できるようにするために、日本にいても連絡が取りあえるキューバ国民の知り合いをつくることが必要だと考えていた。したがって、人脈形成も渡航の目的の一つとしていた。
 調査期間中は、あらゆる場面で複数人と連絡先を交換することができた。ハバナ滞在中はカサ(民家)に宿泊した。3週間の滞在のため1週間ごとにカサを変え、合わせて3件のカサに泊まった。特に深い関係を築くことができたのは1件目で、そちらには小学生の子どもがいた。キューバの教育に興味があることを伝えると、小学校の話をしてくださったり小学生が使う複数の教科の教科書を見せてくださったりした。帰国後もキューバの初等教育について教えてもらうために連絡を取り合えるか伺うと、快く承諾してくださった。
 また、ハバナ大学内でも人脈形成に協力してくださる教員や職員、街で仲良くなった婦人やそのご家族などとも連絡先を交換することができた。依頼や予定を忘れられてしまったこともしばしばあったため、連絡先を知っている方のなかで一人とでも連絡を取り続けていられたらいいと考えている。また、次回の渡航を予定している春季休業期間中は、ハバナ大学のスペイン語コースのクラスメイトも何人かまだハバナに滞在している予定であるので、キューバ国民ではないが、こちらの人脈も事前情報を得る際に活かしたい。
 残念なことに、紹介をいただいてアポイントメントを取っていたハバナ大学の教授とは、直接お会いしお話することができなかった。これはうまく連絡のやり取りをすることができなかったためであるが、この反省を活かしてもう一度機会が得られたらいい。

資料収集

 キューバの教育に関する資料、特に日本では入手困難なものを探すために、ハバナ大学の図書館、ホセ・マルティ国立図書館、そして複数の書店を訪れた。
 まずハバナ大学の図書館は、スペイン語コースを受けている生徒も利用可能であった。ジャンルごとに分けられた箱に入っている図書カードのなかから読みたい本のカードを出し、受け付けで持っていてもらうというスタイルで、図書館内でのみ閲覧可能である。政治などといったジャンルは設けられていなかった。また、教育や歴史などの箱のカードを見たが、書籍は1959年の革命前に書かれたものなど古い資料が非常に多かったため、研究の参考になりそうな資料はあまりなかった。雑誌などの資料は、後述する民間書店にも置かれているものが多かった。
 ホセ・マルティ国立図書館では、初回に入館証をつくってもらう必要があった。その際にハバナ大学の学生証を見せたり、自分の研究内容についていくつか質問されたりした。一部の本は棚に並べてあり手に取ることもできたが、1998年までに出版された多くの資料は、ハバナ大学の図書館と同じくカードを受け付けに持っていく方式であった。現在はデジタルでの検索ができるようである。所蔵されている雑誌や新聞は19世紀後半に出版されたものが非常に多かったのが印象的であった。キューバの政治に関するものや、キューバに関する内容で米国で出版されたものなどもあり、雑誌の種類も非常に数が多かった。1959年のキューバ革命以降にも出版されている資料について、内容は日本でも閲覧することができるかなどを調べることは、調査が終了した現在の課題である。また、19世紀の社会科学に関するものが現在も国立図書館にこれほど多く所蔵されていることも興味深いので、これらがどのような立場で書かれたものなのかを調査することも今後の課題としたい。そしてまた図書館内には、フィデル・カストロの写真だけが四方に飾られたギャラリーや、キューバ革命に関する資料などの展示、昔のおもちゃやお祭りのポスターの展示などもあった。
 また、両図書館を見て気がついたことは、キューバの教育について言及されている本ではUNESCOと関連付けられていることが多かったということである。これは、UNESCOがキューバの教育における業績を評価し、モデル国として推奨していることと関係していると考えられる。
 ハバナ市内の書店では、チェ・ゲバラやフィデル・カストロの顔が描かれた表紙の書籍が目立った。ハバナ大学近くの書店にはハバナ大学の経済学部が出版している “Economía Desarrollo(経済発展)”や “Revista Cubana de Educación Superior(キューバの高等教育誌”) 、“La Gaceta(定期刊行物)”といった雑誌があり、学問に関するものが特に多かった。キューバからは本を持って帰ることが難しいという話を何度か耳にしていたが、書店で購入した本はすべて日本まで持ってくることができた。
また、前述したように宿泊先で小学生の教科書を見せていただいたこともあった。教科書はやはり使い回しで、どれも紙やビニールで補強されていた。また、内容は19世紀末のキューバの思想家であるホセ・マルティと関連付けられているものがいくつかあった。キューバ革命において、革命軍を指導したフィデル・カストロが彼の思想に強く影響を受けており敬っていたことが、そのことと関係していると考えられる。彼の思想や存在が教育においても重要とされていること、そしてそれを後世にも語り継ぎ残そうとしているという姿勢を垣間見ることができた。教科書は何冊か頂けたので、資料として研究に役立てることを期待している。

 フィールドワークでは、予期していなかった成果をいくつも得ることができた。例えば、街を歩いているとそう広くない範囲でいくつもの小学校を発見した。それぞれそんなに大きくて目立つものではなく、周りの住宅と同じような外観であった。もともとあった建物がそのまま使われているためと考えられるが、ここにも少人数での学習を重視するキューバの特徴を見ることができた。各小学校の入り口にホセ・マルティの胸像が置かれているということも、目で確かめることができた。午後には子どもたちが何人も集まって公園や広場で追いかけっこをしたりボールで遊んだりしているのを見かけたが、時々それを仕切っている先生のような人もいたので、学校に運動場がない代わりにこうして外で遊ばせているのであろう。これらのことから、学びの環境を新しく作るのではなく、既にあるものを活かして学びに役立てていることがわかった。革命後の豊かとはいえない状況下で、教育の質を上げることに取り組んでいたためと考えられる。また、ある土曜日の日に宿泊先のご夫婦が息子の小学校の天井の修理をしに出掛けたことがあった。その様子を動画でも見せていただいたが、保護者が教育の現場に深くかかわっているということがわかった。家でも壊れた扇風機を親子で直していたことがあり、このような経験から、壊れたものを直して長く使う習慣や、自分の身の回りの課題を自分自身や同じ社会集団に所属する人と一緒にこなすということを学ばせていくのだと知ることができた。
 今回の調査は二度目の現地調査があることを想定したものであったため、間接的ではあるが、次回の渡航の際に今回得た情報や経験を活用することで、今後の研究に活かしていきたい。また、現在は研究テーマを絞っていく段階でもあるため、その際にも今回の発見などを参考にできると期待している。しかし今回のフィールドワークでは、予定していたがなし遂げることはできなかったということもたくさんあった。今回の反省を踏まえると、次回の渡航に向けて日々準備していかなければならない。次の調査までの間は、さらに研究テーマを絞ったうえで授業などを通じてフィールドワークの手法をしっかり学び、より具体的なテーマや方法で調査を行いたいと考えている。そして次の調査においても修士論文の執筆においても、今回の調査で得たものが大いに発揮できるよう努めていく所存である。