イスラームに対する学問のアプローチは多様です。日本ではこれまで宗教としてのイスラームに関する思想研究、文明としてのイスラームに関する歴史研究が主流でした。その後、1970年代末から政治にイスラームを反映させようとする運動(「イスラーム主義」や「イスラーム原理主義」などと呼ばれます)が興隆してきたことを受けて、この30年間ほどは政治学の分野からのイスラーム研究が盛んに行われてきました。このような状況を受けて、地域研究の分野で今、イスラームが取り上げられるときには、政治あるいは紛争や難民の問題などとの関連で注目されることが最近は目立ちます。
しかし、地域研究がイスラームに取り組むことの意義は、そうした目の前の問題に取り組むことだけに求められるわけではありません。時間的に長く、空間的に広く展開してきたイスラームの共通性と多様性を、それぞれの地域のムスリムたちの暮らしの現実に立脚しながら大きく見ていこうとするありとあらゆる試みが、地域研究としてのイスラーム研究(「イスラーム地域研究」という呼び方が、1990年代半ばから使われています)を構成します。そこでは、思想や歴史や政治、さらには文学や人類学や社会学の研究が単独で行われるのではなく、一人の研究者のうちで、あるいは研究者の集団のなかで交わり、たがいに結びつけられていかなくてはなりません。
もちろん、地域のありとあらゆることにイスラームを見てしまうような過剰な解釈は慎まなくてはなりません。それに、本当ならここで述べたような研究のアプローチは、キリスト教についても同じように適用可能なはずです。なぜ、今、イスラームをめぐる地域研究で盛んに議論されていることが、キリスト教については行われないのか、その意味合いを考えることもまた、イスラーム研究と地域研究の双方にとって意義のあることと言えるでしょう。