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院生のフィールドレポート

トーゴ共和国 / ロメ

報告者:

グローバル・スタディーズ研究科 地域研究専攻 博士前期課程
中村 克己

調査地:
トーゴ共和国 ポガメ・ハホ
調査・研究課題名:
トーゴ共和国のリン鉱石開発が農業に及ぼす位置付けと課題:リン鉱石採掘・精製地と農村地の現地調査より

1. 調査概要

 農業がGDPの中心を占めるトーゴでは、農業生産性が低いことを課題としている。この課題を克服するため、トーゴ政府は、国内で産出するリン鉱石を利用した肥料生産を目指し、2007年5月14日にリン酸塩管理会社公営企業・Société Nouvelle Des Phosphates du Togo(以下SNPT)を設立した。SNPTは、年間150万トンのリン鉱石を採掘・精製している[Kakpo 2023]。
 2025年1月31日から2月16日に実施した第1回フィールドワークで、①SNPTが実際にリン鉱石を採掘精製し、専用の桟橋から船積みし輸出している事、②SNPTの採掘に伴い採掘地域農民が強制移住を強いられた情報、③採掘廃土の放置とその海洋投棄による海水の変色を確認した。一方で、農民がリン鉱石による化学肥料を使用している事は確認できなかった。
 今回のフィールドワークは、第1回の結果を踏まえ(1)採掘したリン鉱石による肥料製造、(2)リン鉱石を用いる農業政策に対する農民の気持ち、(3)リン鉱鉱石開発に伴う環境汚染状況を確認する事を目的として実施した。

2. フィールドワーク対象地と調査スケジュール

2.1 調査対象地
(1)リン鉱石採掘・精製地及び肥料製造所
  SNPTのリン鉱石採掘場所であるポガメ(KPOGAME)と精製施設が所在するペメ(KPEME)を再視察し、首都ロメ近郊に所在する肥料製造会社を確認した。
(2)農村地
  ポメ(KPOME)、デクポ(DEKPO)、ペメ(KPEME)を訪問し農民へのヒアリングを実施した。
(3)政府及び研究機関
経済・財務省の長官とリン鉱石開発プロジェクトにつき面談した。また、LOME大学地質科学研究所で主任教授と環境汚染問題について面談し討議した。

図1-1:ポメ              図1-2:ポガメ、デクポ、ペメ

[出典LovelyPlanet] 及び [EHP PUBLISHING]より著者作成が作成

2.2 調査スケジュール
 7月30日 成田発 7月31日 トーゴ・ロメ着
 9月1日~3日 ロメ市内:経済・財務省、LOME大学及びITRA(農業研究所)
 9月4日~7日 肥糧製造会社(外部より確認)、農村地域訪問とヒアリング
 9月8日~9日 関係者とラップアップ。
 9月10日 トーゴ・ロメ発 9月11日 成田着

3.調査内容

3.1 調査方法
 現地視察とヒアリングを実施した。
3.2 リン鉱石採掘・精製地及び肥料製造会社
(1)リン鉱石採掘・精製地
 SNPTの公式視察許可は得られなかった。採掘地ポガメと精製地ペメでは、写真撮影により稼働を敷地外から確認した。鉱石は、採掘場所からベルトコンベアーで貨物列の積込み地まで搬送されていた。各施設は、警備が厳しく秘密主義で外部に詳細が知れる事に神経質になっていた。

図2:採掘場所からのベルトコンベアー
図3: ポガメ採掘場①
図4:ポガメ採掘場②

(2)肥料製造所
 化学肥料製造を行っている2企業を確認した。
 一番目は、スペイン系企業のCIAT Sarl [CIAT]。ロメの工業団地内に存在し、外壁に囲まれていた。内部見学は、許可されず稼働状況を確認できなかった。リンの他にカリウムと窒素(尿素)を混合した化学肥料(NPK肥料)が製造されている。肥料袋が市中家屋で使用されていた。
 二番目は、シンガポール系のPIA [PIA]という企業がロメからクメに向かう途中に存在した。敷地内に入っての見学は許可されなかった。CIAT同様に、NPK肥料が製造されている。
 両社とも海外資本系企業であるが、トーゴで重要な役割を担っており守秘管理を厳しく徹底している。トーゴにおける肥料プロジェクトが、非常に神経質な管理下にあることを示している。

図5:CIAT製造所
図6:CIAT肥料袋
図7:PIA外観

3.3 農村地域
 ポメ、デクポ、ペメの農村で、農民へのヒアリングを実施した。
 ポメで4名、デクボで2名、ペメ2名の農民から話を聞く事ができた。

(1)ポメ
 ポメは、リン鉱石採掘地ポガメの北に位置し隣国ベナンとの国境に接している。南部の湿潤サバンナ地帯である。ポメは、ポガメでの採掘に伴い1982年に村ごと初めて強制的に移住させられ出来た農村で42年を経過している。ポガメ郊外には採掘跡に雨水が溜まった池があった。
 キャッサバ、メイズ、アディマ(葉野菜)、ペペ(グリーン唐辛子)等が栽培され、いずれも自給作物である。その他ヤシやチークも栽培されていた。栽培法は手作業主体である。化学肥料は高価格で殆ど使用されていない。NPK肥料価格は,西アフリカ周辺国の14,000CFA/50kgに対してトーゴでは18,0000CFAであり、価格差理由は不明であるという。
 政府は、農民達の移住に一時金として移動費と家屋建築費を支給した。政府は、当初将来保障として、家屋修理費、水整備、道路整備、学校整備を約束したが、40年余り実施されていない。住民は不満を持っているが、政府の武力の下で何も言えていないでいると言う。

図8:ポメ農地
図9:ポメ村中心
図10:採掘跡の池

(2) デクボ
 デクボはポガメから精製地ペメに向かう途中に位置する。作物は、メイズ、キャッサバ、ビーンズ(あずき)、グランノート(落花生)、バナナ、ヤシ等である。栽培方法は手作業主体で、トラクター使用は一部農民に限られている。農民は、化学肥料を極まれにしか使用していない。
 政府は農民に肥料を貸し付ける。農民は、収穫が不十分で収入が少ないと返済できない。農民の返済ができない時は、政府が作物を農民から取り上げてしまうと言う。政府は、いろいろな約束をしたが実施していないと言う。農民は、我慢しており抗議行動は行わず諦めモードにあると言う。

図11:デクポからの採掘場①
図12:デクポからの採掘場②
図13:デクポ農地
図14:デクポ村中心

(3) ペメ
 ペメの農地はリン鉱石精製所に隣接し、メイズ、キャッサバ、トマト等が手作業で栽培されている。
 政府は、何も具体的な地域振興策を実施していない。他の地域と同様に農民は、諦めの気持ちを持ち、淡々と農作業を行っている。
 更に精製所に隣接しているため、採掘廃棄物による環境汚染の問題が生じている。かつて精製所に勤務し、定年後もここで生活している方の話を聞く事ができた。ある手術をした際に、体内に多くのリンの存在を(含有する重金属も存在)確認したと述べてくれた。その方の歯は、カドミウムに因ると思われる黄ばみが確認できた。

図15:ペメ農地からの精製所
図16:ペメ農地

3.4 政府及び研究機関
 リン鉱石開発プロジェクトについて政府関係者から話を聞いた。また、農村の環境問題に関連して大学研究者と討議が行えた。

(1)リン鉱石関連プロジェクト
 経済・財務省長官に、トーゴ政府のリン鉱石を活用する農業生産性向上プロジェクトについてヒアリングが行えた。絶対に名前を公表しないとの約束の下で以下の情報を得ることが出来た。
 農業資材(例えば肥料)は、トーゴでは基本的に政府の統制下にある。そのため、農業資材は、簡単に市中の小売店で購入する事は出来ず、地域の役所などの政府関係機関に申請して購入する。政府は、肥料などの資材を製造企業から仕入れ農民に高く販売するのが常である。肥料製造企業は、原料のリンを安価に調達し配合加工して十分な利益を乗せた価格で高く販売している。政府は、企業との癒着で利益を得れるよう肥料を調達し農民達に販売している。
 この構図では、現肥料製造会社は外国系企業(スペイン、シンガポール等)であるので、海外に利益が流れる。そこでトーゴ政府は秘密裏に自国だけの肥料製造機関(会社)を設立するプロジェクトを進めている。政府は、モロッコ、ナイジェリアにトーゴ人の技術者を送り養成を図り、今後2,3年での設立を目指している。このプロジェクトは、外部に漏れないように最大限の注意を払われている。

(2)LOME大学
 リン鉱石採掘・精製の環境への影響を確認するために、フィールドワーク出発前に、トーゴの科学者への面談を申し込んでいたが、丁度夏休み期間に重なり、アポイントは取れていなかった。現地で再度連絡を試みて、LOME大学地質科学研究所の主任教授との面談が実現した。教授は、ポガメ、ペメにおけるリン鉱石開発による廃棄物中に重金属が含まれ、環境(土地、海洋)に投棄されている事を論文にしている。
 教授は、廃棄物中に約50ppmのカドミウムが含まれるため、地域環境への長年の蓄積を危惧していた。また日本のイタイイタイ病の事は熟知していた。しかし、政府、企業は、効果的な汚染対策を実施していない。やはり名前を公表しない条件で、環境汚染の危険警告をしていた。今後は、相互に連絡を取り合う約束を行った。
 彼の他にLOME大学の研究者2名とも個別に連絡が取れ、今後、情報交換を行えることになった。また、同様に環境問題と農業の研究を行っているトーゴ農業研究所の研究者とも連絡が付き今後の協力を得ることになった。

図17:LOME大学地質科学研究所
図18:農業研究所①          図19:農業研究所②          図20:農業研究所③

4.今回調査で分かった事と今後

4.1 判明した事
(1)リン鉱石プロジェクト
 リン鉱石に関連した農業生産性向上プロジェクトは、厳重な管理の下で、トーゴ政府統制で実施されている。採掘精製だけではなく、自国に依る肥料製造プロジェクトの成否が重要である。

(2)農業関連
 政府プロジェクトの推進の反面で、トーゴ政府が強権的に(独裁的に)農民・住民を支配している事が明らかになった。農民・住民は不満を持ちながらも、明確な力(武力)の差から抗議活動を行えないでいた。ポガメ地域の農民は採掘場所の拡大に伴い、ポメに強制移住を強いられていた。

(3)環境汚染
 リン鉱石の含有重金属による環境汚染が実際に存在する。長年の蓄積による健康被害が危惧される。トーゴ政府の積極的な対策は行われていない。

4.2 今後
 第1回調査と今回調査に基づいて、「トーゴ政府が掲げるリン鉱石開発に基づく農業生産性向上政策は必要か?あるいは効果的に機能するか?」を修士論文にて問いまとめる。