安江 友里
グローバル・スタディーズ研究科 地域研究専攻 博士前期課程
2023年8月2日から9月6日にかけてコロンビア、バジェ・デル・カウカ県カリ市に滞在した。当該地域は、植民地時代からのアフリカからの奴隷の末裔である、アフロ系の人々がラテンアメリカで2番目に多く、国内の他都市と比較して失業率や殺人率の高い。今回の調査は、カリ市において、アフロ系の若者が経験している暴力や差別、失業といった困難な状況下で、彼らがどのように社会が規定する「問題」としての若者像やスティグマを乗り越え、教育や雇用の機会の獲得や自己実現を達成していくのか、そして彼らにとって自己実現とは何かを明らかにすることを目的として実施した。また、カリ市は2021年に起きたパロ・ナシオナル(全国抗議デモ、以下パロ)の中心地となり、国内で最も若者の犠牲者が多かった地域である。抵抗の拠点や参加した若者から話を聞き、パロを通してカリ市の歴史や現状、若者がどのように社会を捉えているのかを知ることもカリ市滞在の大きな目的であった。
調査題目の通り、計画段階ではアフロ系の若者に焦点を置いていたが、アフロ系の人々が多く住む市内東部の大衆居住地区だけでなく、市内西部の丘陵地帯に位置する大衆居住地区の訪問する機会を得られた。そのため、アフロ系の若者に限らず、脆弱な状況に置かれている上述の2つの大衆居住地区の若者へのインタビューを中心に調査を実施した。

西部自治大学(Universidad Autónoma de Occidente)、ハベリアナ大学カリ校(Universidad Javeriana)の大学教授、合計8人と面談を実施した。若者や貧困地区だけでなく、教育、歴史、人種差別など多岐にわたる分野の研究から助言をいただくとともに、フィールドとした2つの大衆居住地区で活動をしている団体や、関係者の紹介もしていただいた。そのほか、カリ市渡航前に首都ボゴタのCINEP(民衆教育研究センター)においても面談を実施し、パロやカリ市の歴史に関する情報収集を行った。
大衆居住地区で活動をしている、以上7つの団体を訪問した。
24〜32歳の若者6人にインタビューを実施した。いずれも大衆居住地区に在住、またはそこで開かれていた活動や団体に参加した経験をもち、現在は自らも何らかの取り組みを持っている若者を対象とした。


計画段階の仮説において、暴力や差別の困難な状況下に置かれた若者の自己実現には、進学や労働市場への参入以外にも見出しうるゴールや、彼らにとっての自己実現があると想定していた。実際にインタビューを通じて話を聞くと、彼らの中には労働市場に参入する選択肢がありながらも、自らそれを選ばず、インフォーマルセクターで働きながら子どもとの活動やボランティアで観光業に従事するなど、自分が信念を持ってやりたいと思っていることやその取り組みを自分の人生設計や自己実現の主軸に置いている人が少なくないことがわかった。そして、その背景にはアフロ系であることや、その地域の出身であることから経験した困難があり、それが彼らの選択や人生設計、そして自己実現につながっていることもわかった。
また、渡航前は『彼らがどのように社会が規定する「問題」としての若者像やスティグマを乗り越え、教育や雇用の機会の獲得や自己実現を達成していくのか』という問いを立てていたように、彼らの自己実現の過程には困難を「乗り越える」過程があると想定していた。しかしながら、実際に話を聞くと、彼らの人生設計や自己実現とは、暴力や差別などを乗り越えた先にあるのではなく、その困難やスティグマに対峙していく過程にそれらを位置付けているようであった。
参加した若者は、「自分がここ(モニュメントや壁画)に描かれる1人になっていてもおかしくなかった。そこにいたというだけで誰だって暗殺されたかもしれない。」と語った。その地域だから、若者だから、ただそこにいたから、それだけの理由で暗殺されてしまう状況であったことが伝わった。また、ツアーの中で聞いた「(激しい抵抗の拠点となり、若者が暗殺されてしまったのは)なぜならここだから、シロエだから。ここが、貧困地区で、周縁化されているから。スティグマタイズされているから。」という言葉から、2021年のパロは特に大衆居住地区が抱えるスティグマや脆弱性が可視化した出来事だったことがわかった。
また、複数の若者への聞き取りを通じ、パロのマーチやコミュニティ食堂を通し、社会的な活動やリーダーシップをとっている若者同士が知り合い、現在も継続的に互いの活動を通して交流、協力しており、パロがリーダの若者同士が出会う契機となっていたという視座も得られた。


上述したように、今回の調査では市内西部の丘陵地帯の訪問が想定外に叶った一方、地区の形成の歴史などの事前の知識が浅いまま訪れることとなった。事前にもっと論文を読んだり、情報を収集したりしておくべきだった点を反省している。
今後は、インタビューをした若者や、面談を実施した関係者らとの人間関係の維持に努め、修論の執筆に取り組む。
(2023年度フィールドワーク・サポート 現地レポート)