武田 朋佳
グローバル・スタディーズ研究科 地域研究専攻 博士前期課程
講義のある日を避け、ユダヤ教のお祭りの期間にかぶるように訪問した。
長女の成人式(Bat Mitzvah)のお祝いのため、母親のリビさんと長女がニューヨークに滞在している期間であった。
助成金の採択額の節制のため1回の訪問を考えていたが、移動手段を新幹線から高速バスへ変更することで2回訪問することができた。また、2月の訪問では4日までの滞在を予定していたが、雪の影響で予約していた夜行バスがキャンセルされたため、律法学者で宗教的指導者のラビ・モデルハイ・グルハマ(以下、ラビ・モティ)のご厚意で特別にハバッド京都に泊まらせてもらった。

超正統派(Ultra-Orthodox(※1)、Haredim(※2))は、ユダヤ教で最も宗教的保守派とされる宗派であり、この中には大きく2つの流れが存在する。今回の調査に関係するのは、ハシディズムの流れに位置する集団である。ハシディズムとは、18世紀後半にヴォルィーニとポジーリャで起きた一種の民間信仰であり[Heilman & Friedman 1991: 206]、バール・シェム・トーブという人物から始まったとされている。ハシディズムには、その運動を担う下位集団が複数存在し、それらの集団はレッベ(Rebbe)と言われる義人を中心としてコミュニティを形成している傾向にある。今回、調査に協力いただいた団体もハシディズム下位集団の一つであるハバッド・ルバヴィッチ(Chabad Lubavitch)に属している。
ハバッド・ルバヴィッチの本部はニューヨークにある。7代目レッベが、贖いを早めるために世界中で活動することを推奨したため、使者はあらゆる場所でハバッドハウスという施設を運営している[Biale, Brown & Heilman 2017: 696–698]。彼らは、ユダヤ人がより敬虔な生活を送れるようサポートしていることもあり、超正統派以外のユダヤ人にも寛容である。
国内にある4つの超正統派の施設は、ハバッド・ルバヴィッチに属しており、そのうちの2つが東京都、1つは京都府、もう1つは岐阜県にある(※3)。今回調査にご協力いただいたハバッドハウス・オブ・ジャパンは、東京都、京都府、岐阜県にそれぞれ施設を擁する。同団体の代表は、1999年に来日したラビ・ビンヨミン・エデリー(以下、ラビ・ビンヨミン)である。ラビ・ビンヨミンは東京で活動を始め、ハバッドハウスの運営以外にユダヤ教の食事規定を守った食品の認定を行うコーシャジャパン株式会社を経営している。ラビ・ビンヨミンが活動の一環として開設したハバッド京都では、現在、ラビ・モティが住み込みで働いている。
今回の調査の目的は、ハバッド京都がどのようにコミュニティ形成を行っているのかをその活動を通して知ることであった。そのため、大体朝9時にハバッド京都へ行き21時過ぎまでハバッド京都で参与観察を行い、隙を見てラビや日本人秘書たちに聞きとりを行った。
今回の訪問では、ハバッド京都がハバッドハウスとして行っている活動と、コミュニティの輪を広げるために行っている活動について観察・聞き取りをすることができた。
ハバッド京都の活動は、他のハバッドハウスと同様にユダヤ人がより敬虔な生活を送るためのサポートが中心となっている。具体的には、安息日(※4)のサービスやコーシャフード(ユダヤ教の戒律にある条件を満たした食べ物)の提供である。ユダヤ教では、食事に関してコーシャなキッチンが必要なレベルで宗教戒律があるため、ラビの家族が自分たち用のコーシャキッチンで、時にプロの料理人に手伝いを頼みながら作った食事を、宗教生活のサポートとしてユダヤ人にも振る舞っている(※5)。
安息日に振る舞うご馳走は、労働が禁じられている安息日が始まる前に用意される必要がある。ハバッド京都に来るユダヤ人の大半が観光客であるため、来客者数は時期によって大きく異なる。報告者が訪問した時期は、イスラエルが実質戦争状態にあるため閑散期であったが、それでも安息日はご馳走を食べる決まりから、安息日用のパン(Hallah)、8種類ほどの前菜6(※6)、スープ、ライス、魚料理、安息日の煮込み料理(Cholent)、フルーツなどを用意していた。安息日が始まる金曜日の日没前には、シャワー等の自分たちが安息日を迎えるための支度を済ませなければならないため、非常に忙しい。そのため、金曜日夜から始まる安息日の食事の準備は木曜日の午前中から始まっていた。
食事提供の他に、安息日の土曜日の朝には、ハバッド京都のシナゴーグで聖書講読が行われていた。男性はシナゴーグの内側に、女性は外側に座り、聖書を順番に読みあげていく(※7)。この聖書講読を通して聖書を一年かけて読み進める。また、聖書講読よりも早い時間には、ラビ・モティによる聖書講座も行われていた(※8)。


繁忙期には、100人を超える来客者が安息日の食事に参加することもあり、ラビ一家だけでは、安息日のおもてなしをすることは難しい。そのため、ハバッド京都にはお手伝いに来る人が何人かいる。彼らの多くは、ハバッド京都で働く人経由でハバッド京都を知ったそうだが、現在の秘書と料理人は例外であり、秘書はユダヤ教へ、料理人はコーシャ認定への関心からハバッド京都にたどりついていた。
秘書は日本人向けツアーや読書会の企画等、精力的に活動している。日本人向けツアーは、とあるミニツアープラットフォームを利用して、2023年4月の過越し祭後から年に数回程度、季節のお祭りにテーマを絡めて開催しているものである。参加者の多くは、キリスト教に馴染みがある人、近所に住み気になっていたが訪れる機会がなかった人、当該ミニツアープラットフォームに載っているツアーに行くことを趣味としている人に分類することが可能だ。内容はラビ・モティと秘書が相談して決めており、秘書お手製の紙スライドでユダヤ教の解説等を聞いたり、お祭りの一部を体験したりできる。また、訪問時にはラビ・モティの代理として秘書がオンラインで大学生にユダヤ教の基礎的な考え方についてレクチャーしている姿も観察した。この他にも、ハバッドハウス・オブ・ジャパンとして、被災地支援等の慈善活動もしている。以上が、ハバッド京都を事例とした海外を拠点としたハバッドハウスに関する調査報告である。
今回の調査では反省すべき点もあった。1つ目は事前調査の不足である。それぞれの調査前に文献を読んではいたが、調査に行く度に不足している部分があると感じた。
2つ目は、計画の変更や経費の精算についてである。国内の調査ということもありイレギュラーなことが起こるとは思っていなかったが、悪天候により予定通りに帰宅できないという問題が発生した。また、新幹線から高速バスへの移動手段の変更願いや経費の精算に関する書類の提出は早めに済ませる必要がある。日程変更や書類の用意のためだけでなく体調を崩す可能性もあるので、調査日程前後に予定を詰め込まないように気を付けたい。
反省点も多いが、充実した調査を行うことができた。ご協力いただいたハバッドハウス・オブ・ジャパンの皆さま、先生ならびに専攻事務担当の方々に感謝し、今後の研究に励んでいきたい。
(2023年度フィールドワーク・サポート 現地レポート)