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院生のフィールドレポート

中国  /上海 (他)

報告者:

グローバル・スタディーズ研究科 地域研究専攻 博士前期課程
LI YUTING

調査地:
中国・上海  東京都・新宿区
調査・研究課題名:
中国人移民女性にとってのホストクラブ—「心の居場所」と日本特有の情動文化に関する文化人類学的研究

1.調査の目的

近年、中国・上海においても、日本のホストクラブと類似した接客形態を持つ店舗(いわゆる「男模店ナンモてん」)が存在し、都市部の女性を中心に一定の人気を集めている。しかしながら、日本に在住する中国人女性の中には、上海にも類似店舗が存在するにもかかわらず、依然として日本のホストクラブを継続的に利用する者が少なくない。とくに、一部の在日中国人女性が、日本のホストクラブを異文化適応の過程における重要な「居場所」として経験している点を明らかにする。この現象は、単なるサービス内容の差異では説明しきれない側面を含んでいると考えられる。そのため、本調査は、上海の男模店と日本のホストクラブにおける接客実践、空間構成、消費形態、相互行為様式などを比較的に観察することを通じて、両者の共通点および相違点を明らかにすることを目的とする。

  1. 2. 調査の概要
  2. 2.1 調査地と調査方法 

本調査は、中国・上海市において実施した。調査地として選定したのは、人民広場、淮海中路、鎮坪路、そして夜間の飲食店や若者文化が集まる大学路周辺である。これらの地域はいずれも上海の中心、あるいはそれに近いエリアに位置しており、若年層を中心とした消費活動が活発に行われている都市空間である。

 調査方法は、以下の三つとなる。

➀ フィールドワーク:参与観察を中心とした調査を行った。各店舗や周辺環境において、立地条件  

 や店内の雰囲気、来店客の特徴、店員とのやり取り、消費の様子などを観察した。

② インタビュー調査:合計3名への聞き取りを実施した。男模が1名で、女性客が2名である。1名は上海

 の男模店のみを利用した経験を持つ女性、もう1名は上海の男模店と日本のホストクラブの双方を利用 

 した経験を持つ女性である。

③ 文献調査:上海図書館において上海の夜生活文化の形成に関する文献調査を行い、現地での観察

 内容を理解するための背景資料として参照した。

2.2 調査日程

調査期間

2026年2月11日~2026年2月23日(2月11日上海浦東着、23日東京着)

詳細日程

2月11日~12日 各店を調査予約すること、「CP男執事店」(予約失敗)

2月13日 「淮海国際KTV」&「BH whiskey club」

2月14日 「GalGameメイドバー:電子ゲーム・二次元・ボードゲーム」

2月15日~17日 インタビュー対象者を探す、時間を予約すること

2月18日 上海の男模店のみを利用した経験を持つ女性にインタビューを行う

2月19日 男模店とホストクラブの双方を利用した経験を持つ女性にインタビューを行う

2月20日 上海図書館で文献調査を行う、「淮海国際」の外で観察すること

2月21日 「大人糖」という女性向けリラクゼーショングッズショップ

2月22日 「CP男執事店」また予約する&行くこと

3. 調査内容

3.1 フィールドワーク「BH whiskey club」&「淮海国際」

淮海国際KTV

 本店舗は上海市中心部に位置し、隣接する上海環貿広場(iapm)は東京の銀座に相当する高級商業エリアとして知られている。このような立地条件から、本店舗は上海における「男模店」の中でも特に高価格帯に属する店舗であり、消費水準も比較的高いとされる。営業時間は午後8時から翌朝5時30分までである。

図1 高德地図

図2 淮海国際広場の現場

 中国版TikTok(抖音)を通じて店舗の営業担当者と連絡を取った際、当該店舗における基本的な消費構造は以下の三点から構成されていることが確認された。①個室利用料が580元、②個室内で飲食の提供などを行うスタッフへのチップが600元、③男模のチップであり、これは1,200元、1,500元、2,000元の三段階に設定されている。しかしながら、事前のやり取りにおいては酒類に関する最低消費額についての説明はなされていなかった。実際に淮海国際KTVを訪問した際、店舗側より最低消費額として3,000元の支払いが必要であることを告げられた。筆者は営業担当者への確認を行った後、当日の利用を見送り、店舗を離れることとした。以上の最低消費額に加え、事前に提示されていた固定的な費用を合算すると、一度の利用に必要な総額はおよそ5,380元から6,180元(約122,000〜140,000円)に達すると推測される。

図3 淮海国際KTVの入り口

 また、価格体系が必ずしも事前に明示されていない点に加え、店舗の立地にも特徴が見られた。淮海国際KTVは上海において知名度の高い男模店であるにもかかわらず、繁華な立地に位置しながらも外部に看板表示は確認できず、地図アプリ上でも店舗名による検索が困難であった。

  

図4

図5

図4図5 店内様子

BH Wiskey CLub

筆者は淮海国際を離れた後、同じ経営者が運営する「BH」という店舗を訪れた。この店舗は淮海国際とは異なり、上海市中心部ではあるものの、東京でいえば池袋北口周辺のような、商業と居住が混在する比較的生活感のあるエリアに位置している。淮海国際と比べると、こちらの店舗の価格設定は全体的にやや低くなっている。

図6 WeChat地図

図7 BH Wiskey CLub

           

 消費構造は淮海国際と同様に三つの項目から構成されている。第一に個室利用料が580元、第二に個室内で飲食の提供などを行うスタッフへのチップが400元、第三に男性キャストへのチップであり、これは1,200元、1,500元、2,000元の三段階に設定されている。ただし、この店舗では酒類に関する最低消費額の設定はなく、強制的な最低消費は求められない。店内の空間は比較的広く、店舗は二階建ての構造になっている。一階は一般的なバーに近いレイアウトで、個室利用料は発生しない。二階は個室フロアとなっており、男模は主に二階に集まり、客を待つ形で待機している。調査当日はちょうど中国の旧正月直前の時期であり、すでに多くの人が帰省していたため、当日店内に待機していた男模は約60名ほどであった。しかし通常営業時には、同時に300名以上の男模が待機しているという。

 男模店の接客形式は、ホストクラブとは大きく異なっている。客が席に着くと、待機している男模が数回に分けて入室し、通常は一度に5名ほどのグループで客に挨拶を行う。客はその中から気に入った男模を選び、席の近くに残すことができる。このような形で、待機している男模全員が一度挨拶を終えるまでこの過程が繰り返される。最終的には、客は一人だけを残すことも、気に入った男模を複数残すことも可能である。

  

図8

図9

図8図9 1階の席(個室料金なし)

  接客の方法も、ホストクラブとは異なる特徴を持つ。会話を中心とした接客よりも、ゲームを通じた交流が重視される傾向が見られた。男模は、中国酒席で行われる様々なゲームを用いて、短時間で客との距離を縮めようとする。例えば、「干瞪眼」、「十点半」、「国王ゲーム」、「七枚カード」、「炸金花」などのゲームが行われる。これらのゲームの過程においては、「酒」が重要な役割を果たしている。ゲームに負けた側は罰として酒を飲むことが求められるため、酒は客と男模の交流を促進する象徴的な要素となっている。また、これらの交流以外にも、男模によるパフォーマンスが提供される場合がある。例えば、歌いやダンスなどであるが、これらは通常、追加料金が必要となる。最終的に、筆者が当日支払った総額は1,916元(約45,430円)であった。その内訳は、スタッフへのチップが600元、男模へのチップが1,200元、飲料2本が116元である(スタッフへのチップは実際は400元だが、支払いの際に多く支払っていることについて特に指摘はなかった)。

図10

図11

図12 2階のソファ席

図10図11 2階で案内された男模とランキング   

来店客層については、男模からの聞き取りおよび筆者自身の当日の観察から、来店者の多くは20〜30代の女性であることが確認された。また、外見や服装から判断すると、一定の消費能力を持つと考えられる女性が多い印象であった。一方で、男模へのインタビューによれば、男模にかかる費用を負担できず、友人や知人からお金を借り、ネットローンを利用する女性も一部存在するという。

3.2 フィールドワーク「メイドバー:電子ゲーム・二次元・ボードゲーム」

 この店舗は、メイドをテーマにしたボードゲームおよび電子ゲームを楽しむことができる店であり、同時に酒類の提供も行っている。店内の雰囲気は日本の二次元文化を思わせるようなスタイルで統一されている。店内では、女性客は「お嬢様」と呼ばれ、男性客は「ご主人様」と呼ばれているが、これは日本のアニメ文化の影響によるものである。

ここでの消費システムは男模店とは異なっている。まず客は事前にWeChat上で写真を見て好みの「メイド」を選び、その後店舗を訪れる仕組みとなっている。選ばれたメイドは個室で客と一緒に歌を歌ったり、ボードゲームをしたり、酒を飲んだりしながら接客を行う。

図13 店舗様子

図14 ボードゲーム

図15 メイド単価

    

3.3 フィールドワーク「CP男執事店」       

図16 大学路地図

 

 「男執事」という言葉自体も、日本の文化に由来するものであり、いわば「メイド」の性別を反転させた存在、すなわち女性客にサービスを提供する男性を指す。中国ではこの呼び方がそのまま用いられている。大学路周辺には、このように日本のアニメ文化の影響を受けつつも、中国のローカル文化と結びついた店舗が多く並んでいる。周辺には大学が多いため、この通りには若者の姿が非常に多く見られる。また、筆者が上海図書館で収集した資料によれば、この地域は夜間経済を促進するエリアとして開発されてきた場所でもあるという(劉・胡 2021)。

興味深いことに、筆者はこの店舗を何度か予約しようと試みたものの成功せず、実際に現地を訪れても店舗の場所を見つけることができなかった。二度目に現地を訪れた際にようやくその理由が分かった。地図上では店舗の所在地が「302」と表示されているが、実際の店舗は「312」に位置しており、中央の建物は内部でつながっており、店の場所は非常に分かりにくい場所にあった。この点は男模店の立地の特徴とも共通している。

店長との会話から分かったことによれば、男執事店の利用方法もメイド店とほぼ同様であり、事前にWeChat上で男執事を選び、予約を行ったうえで来店する仕組みになっている。また、店内での娯楽内容もメイド店に近く、個室内でボードゲームをしたり、歌を歌ったり、ゲームを一緒にプレイしたりすることができ、酒類の提供も行われている。

図17

図18

図19 大学路にあるアニメ化のローソン

図17図18 店の入口(302と312) 

4.フィールドワークとインタビューからの知見

 インタビュー調査およびフィールドワークの結果から、男模店と日本のホストクラブの接客スタイルにはいくつかの明確な違いが見られた。まず、男模店ではゲームや飲酒を中心とした交流が重視されており、客と男模の関係は比較的短時間で盛り上がる娯楽的な雰囲気が特徴である。さらに、店内では客と男模の距離が近く、早い段階で身体的接触を伴う交流が見られる場合もあり、比較的短時間で関係が親密化しやすい傾向がある。このような接客形式は、中国の酒席文化とも密接に関係していると考えられる。一方で、日本のホストクラブは会話を中心とした接客が多く、インタビュー対象者の一人は「日本のホストは会話が中心で、やや退屈に感じた」と述べていた。また別のインタビュー対象者は、男模店の利用について「一種の接待や営業の延長のようなもの」と語り、客をもてなす場として利用することが多く、そこに特別な感情が伴うわけではないと説明していた。

今回のフィールドワークから、中国都市部では「自分の楽しみ」のためにサービスを利用する女性が増えていることがうかがえた。特に女性向けの娯楽サービスに対する需要は近年高まりつつあると考えられる。この背景には、中国社会において女性の社会的地位や経済的自立が徐々に高まってきたことが関係している可能性がある。その結果、異性との交流を含むサービスを、自分の楽しみや気分転換のために利用する女性も増えてきていると考えられる。

こうした状況を踏まえると、日本に在住する中国人女性にとってホストクラブの利用も、単なる娯楽消費というだけでなく、異文化環境の中での気分転換や交流の場として機能している可能性がある。

5.調査の反省と展望

 今回のフィールドワークは中国の旧正月期間中に行われたため、男模店における来店客および男模の人数は通常時よりも少ない状況であった。そのため、平常時の店舗の様子を十分に観察できたとは言い難い。今後の調査では、より適切な時期を選び、調査のタイミングについても検討する必要があると考えられる。

参考文献:

劉泽泽・胡雪松(2021)「首届上海夜生活节中的夜市空間研究」『城市建筑』第3期,北京:城市建筑雑誌社,239-242頁。