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院生のフィールドレポート

カンボジア / アンコール遺跡公園

報告者:

羅 天歌(ラ テンカ)
グローバル・スタディーズ研究科 地域研究専攻 博士前期課程
調査期間:2019年8月27日(火)~2019年9月3日(火)

写真1 アンコール・ワット(筆者撮影)
(地域の人々とツアーガイドにより、この窪みの前はアンコール・ワットの写真を撮るために最高のスポット)
写真2 バイヨンの四面像(筆者撮影)
(ツアーガイドにより、この視角から二つの四面像の鼻先は取り合わせているようである。観光客は順番を待ち、写真を撮っていた)

(一) はじめに

1) 調査背景
 2013年から中国が実施している「一帯一路」政策は、カンボジアと中国の経済的、政治的な関係をさらに強化し、観光開発を促進する環境も提供している。カンボジアを訪れた外国人観光客数を国別にみると、最も数が多いのが中国人観光客で、2018年には200万人で、前年と比べると10.7%増加した。その中で、112万人がアンコール遺跡を訪れたと推定される。
中国国家観光局及び「携程1」が公表している団体旅行および個人旅行の予約に関するデータを見ると、2018年に中国人に人気の海外旅行上位20の国の中に、カンボジアがランキングされている。さらに、人気の海外上位10都市が発表され、ここにもカンボジアのシェムリアップ(アンコール遺跡のある都市)が含まれている。中国人観光客の継続的な成長に伴い、現地での文化的な観光への需要も増しており、博物館への人気が高まり始めた。携程のデータによると、アンコール国立博物館は中国人観光客の間で非常に人気がある。
 以上は中国人観光客と観光地アンコール遺跡の最近の関係の一端だが、長期にわたってシエムリアップの観光分野を発展させていくためには、アンコール遺跡における中国人観光客の多様な動向の実態や関心などを、カンボジア政府や観光業が把握することが喫緊の課題であると言えよう。

2) 調査目的と方法
 筆者の研究テーマは、「アンコール遺跡におけるイメージの形成――中国人観光客のまなざしから」である。研究目的としては、アンコール遺跡を訪れた中国人観光客に着目し、中国人観光客とアンコール遺跡の出会いを明らかにし、アンコール遺跡での中国人観光客に対する観察調査及びインタビュー調査を行うことによって、中国人観光客のまなざしを解釈し、イメージの形成を明らかにすることを目的とする。
 2018年8月に実施した予備調査は、関係機関とのネットワークづくりとカンボジア観光業について基本情報を収集することを目的とする。筆者は、アプサラ機構観光局とシェムリアップ州観光局を訪問し、カンボジアにおける観光業(特にシェムリアップ)に関する情報を把握した。その一方、様々な問題や困難な状況を了解した。したがって、予備調査の経験を踏まえ、今回は、グループツアーに参加して中国人観光客への個別インタビューをすることに決めた。
 今回は、現地発のアンコール遺跡訪問中国人観光客向けのグループツアーに参加し、同行の中国人観光客を調査対象として、彼らの言動の観察、及びインタビューを実施する。彼らの社会的背景を踏まえつつ、アンコールを訪れる理由を探り、観光客の観光地選択の意思決定へ影響を及ぼす要素を分析する。最終的には、観光のまなざしを解析し、イメージの形成を解明することを目的とする。
 なお、今回の現地調査の成果は、現在執筆中の修士論文にて分析対象として盛り込む予定である。

(二) 調査内容

現地(シェムリアップ)調査は2019年8月27日(火)〜同9月3日(火)に実施、期間中の4日間に渡り、中国人観光客向けのカンボジア・シェムリアップ現地集合・解散のグループツアーに参加した。現地集合・解散のグループツアーを選んだ理由は、中国の異なる地域からくる人たちをインタビュー対象としたかったことが第一である。合計10人の観光客をインタビューし、観光客の全体と細部を観察した。


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1) 日程

8月27日8月28日8月29日8月30日
ツアーガイドから、翌日以降のスケジュールの説明を受ける。バンテアイ・スレイ
(Banteay Srei)

バンテアイ・サムレ
(Banteay Samre)

バコン
(Wat Bakong)

プリア・コー
(Preah Ko)

ロレイ
(Lolei)
アンコール・トム
(Angkor Thom)

バイヨン
(Bayon)

バプーオン
(Baphuon)

象のテラス
(Terrace of the Elephants)

プラサット・スゥル・プラット
(Prasat Suor Prat)

タ・ケオ
(Ta Keo)

タ・プローム
(Ta Prohm)

アンコール・ワット
(Angkor Wat)
プリヤ・カーン
(Preah Khan)

ニャック・ポアン
(Neak Pean)

タ・ソム
(Ta Som)

東メボン
(East Mebon)

プレループ
(Pre Rup)

スラ・スラン
(Srah Srang)

バンテアイ・クデイ
(Banteay Kdei)

バッチュム
(Bat Chum)

プノン・バケン寺院
(Phnom Bakheng)

2) インタビュー対象の基本情報

性別世代出身地職業カンボジア渡航回数
女性40代福建省不明初めて
男性10代河南省学生初めて
女性20代四川省会社員初めて
女性20代四川省会社員初めて
女性40代四川省専門職初めて
男性50代四川省建築家初めて
男性20代四川省学生初めて
男性20代湖南省学生初めて
女性60代浙江省退職公務員初めて
男性30代浙江省学校スタッフ2回目

3) インタビュー内容の概観
 以下、ツアー参加者へのインタビュー結果を抜粋する。なお、以下の本文中の表現は、参加者本人が語った言葉を出来るだけ忠実に翻訳するようにつとめた。各インタビュー内容の分析とまとめは、現在執筆中の修士論文にて公表するため本報告では省略する。
 福建省から1人で参加した40代女性は、歴史など興味がなく、主に彫刻を見るためにアンコール遺跡を訪れた。ニュース、資料など通してアンコール遺跡を知り、自由が好きだという理由で現地からグループツアーに参加した。
 河南省から友達2人と一緒にツアーに参加した高校を卒業したばかりの10代の男性は、小学校の時にカンボジアを知り、アンコール王朝、真臘、クメール民族などすべてを理解してきた。勉強は得意ではないが、小さい頃から歴史、民族、国家、宗教や信仰が大好きであり、自分の目で見てみたかったので、アンコール遺跡を見に来た。実際に来てみて、その多くは、想像していたものと大差ない。アンコール遺跡を舞台にしたゲームがあり、そこに出てくるシーンとまったく同じであると評価した。
 四川からの20代女性会社員2人は、友達の紹介によってアンコール遺跡へ来た。2人のうち1人は、カンボジアへ来る前はイメージが全く無かった。来てみたら、タイやベトナムやラオスに似ている、と思った。観光スポットは、ほぼ石であり、いろんな綺麗な石を見た。しかしながら、観光スポットに関する公式の説明はなく、すべてツアーガイドの口頭の紹介に基づいていた。周辺には公共の交通機関もないし、外国人観光客がアクセスするのが難しいと感じた。もう1人は、アンコール遺跡に対して古くて原始的イメージを持っていた。
 四川省の成都から参加した三人家族(父、母、息子)。母(40代、専門職)は、ソーシャルメディアを通して沢山の情報を入手した。夫の希望に従い、家族一緒にカンボジアに来た。(過去に行ったことのある)トルコや、中国の円明園のほうが、アンコール遺跡よりも壮観だ。アンコール遺跡は、色はあまり明るくなく、石は古すぎるように見える。歴史の重みを強く感じ、美しいが、あまり衝撃的ではなく、トルコの大聖堂のほうが好き。50代の父は、四川省建築科学院で勤務している建築家である。映画『トゥームレイダー』を見て以来、アンコールに非常に憧れていたので、ここに来た。文化的なものに興味がある。元々、流行に従うことや、グループツアーに参加するのが好きではない。しかし、海外に行くと、グループツアーに参加するのは便利であり、何も心配する必要がなく、ツアーガイドは観光客と現地の人との間の橋の役割を果たしている。カンボジアは歴史的には素晴らしい国である。アンコール遺跡も遅く発見されたが、もとの様子が維持されており、ちゃんと保護されていると言った。そして彼は自分の職業柄の視点から、アンコール遺跡の彫刻の建て方や堅実を感嘆し、古代の人々の知恵と労働を感じた。息子は北京大学の三年生で、人工知能について研究している。彼は、ツアー参加者の中で、唯一一眼レフを持っていた人である。しかし、来る前は、カンボジアにアンコール・ワットがあることしか知らなかった。アンコール遺跡は非常に美しくて精美であり、文化的な雰囲気は比較的強く、歴史の重さがあり、でもほとんど同じものがかなりあると感じていた。撮影に興味を持っているが、写真を撮って、フォトショップで加工し、ソーシャルメディアでは共有するつもりはなく、自分のために保存する。
 湖南からの20代の男性学生は、友人から聞いたことがあって、映画『トゥームレイダー』で見たこともあり、そして歴史的建造物に興味があるためアンコール遺跡を見に来た。カンボジアへ来る前、アンコール・ワットは非常に壮大だと思っていた。地域の人々に対するちょっと偏見があり、法律と秩序が機能しないと感じていた。カンボジアへ来た後、アンコール遺跡に関するイメージが変わった。想像のような壮大ではなく、寂しさを感じた。そのような偉大な建築と文化遺産が時間の長い川でゆっくりと姿を消したのは残念であり、また、今の人々が、古代人が残した宝を完全に保護することを願っている。彫刻に反映された古代の労働者の素晴らしいスキルと無限の知恵は最も印象に残っている点である。
 浙江杭州から来た母子二人。60代の母は、元公務員で今は退職している。アンコール遺跡に関するテレビ番組を見て、歴史的、文化的背景を理解した。現在の人々は多くがもっと現代的な発展した都市に魅力を感じて遊びに行く傾向にあることと相反し、自分はアンコールのような原始的な地域に魅力を感じている。都市の発展と遺跡の雰囲気の矛盾や、観光客の中には「遺跡ばかりで見飽きた」という見方をする人もいるが、自分は異なる考え方をもつ。将来、シェムリアップにおける都市開発も他の国を模倣することではなく、自分に合う道に従うべきである。また、独自の特性を持たせるために、アンコール遺跡はシアヌークビルやプノンペンと同じ方向に向いてはならない。遺跡を修復しながら古さを維持する方法、歴史の重さを持つ方法は研究者の課題である。個々の遺跡は当時の王朝の全体像、つまり人々の生活の像を形成した。ツアーガイドがこの視点から説明することができれば、寺を紹介するときに、観光客は昔の光景を考えることができる。この観点から見ると、観光客の審美疲労は軽減される。なぜなら、各スポットは一枚の絵の異なる葉を表し、それぞれの葉が欠けていけないからである。地元の観光局がどのような発展を計画しているのか、各観光スポットを壮大な方法で有機的に接続するのか期待されている。30代の息子はツアーの中で、唯一過去に既にアンコール遺跡へ来たことがある人である。初めてアンコールに行った時に、アンコールの美しさに衝撃を受けた。再び来る理由は、母に付き添うことである。旅行テレビの紹介を通じてアンコール遺跡を知り、建築と宗教は非常に心を震撼された。前回はあまりメンテナンスが行われていなかったと感じたが、今回は明らかに多くの寺が修復し始め、保護され、重視されている。アンコール遺跡は人類文明の遺産であり、将来に多くの人々が見るために、修復は大切だと評価した。

(三) 終わりに

 2018年のフィールドワークでは、未公開の公式的なデータの収集し、関係機関――アプサラ機構観光局とシェムリアップ観光局の担当者がカンボジア(アンコール遺跡)の観光業と中国人観光客に対する認識を把握したが、計画が思い通りに進まなかったため困惑した。今回のフィールドワークは、前回の失敗を反省し、積極的にインタビューし、観光客の言動の細部を観察し、たくさんの艱難を克服した。観光客と語り合う際に、たくさんの目新しいポイントが現れた。調査者の視点から、観光客と一緒に見物することは新鮮であり、かつてない経験である。