報告者:加藤 久美子(カトウ クミコ)
グローバル・スタディーズ研究科 地域研究専攻 博士前期課程
調査期間:2015年2月25日~3月16日

東南アジア海域に、拡散居住するバジャウと呼ばれる人たちがいます。今日、東南アジアに暮らす人びとの流動性や移動性の高さが指摘されることは珍しくありません。なかでも、バジャウと呼ばれる彼らは、陸地に定住せず、船上や海上集落で生活を営むことで知られています。しかし、彼らの歴史は不明瞭で、口頭伝承のiko-ikoが神話的に彼らの歴史を伝えていました。
現在、彼らの多くは定住しています。海岸線沿いの内海を覆うように形成される集落や、陸からだいぶ離れた海の上にぽっかりと浮かぶ集落が各地にあります。また、集落を構成する人々は自称がバジャウでありながら、実に様々な出自を持っています。特に、同じように海を使い海洋交易を担ってきたブギスとの関係は興味深く、ブギス集落とバジャウ集落が近接していることもあります。ブギスとバジャウは異なる民族だと双方が主張しますが、お互いの集落に知人、友人、家族や親せきがいたりします。クンダリでは、5つあるバジャウ集落にブギス集落が隣接していました。調査に同行してくれた運転手はブギス(妻はバジャウ)、集落を案内してくれた青年はバジャウ(妻はブギス)でした。ワカトビ県のモラスルタン(バジャウ集落)では、夫の両親、彼女の両親ともにバジャウではないと語りつつ、彼女自身はバジャウだと自称する女性に出会いました。
観光開発委員会本部が発行するワカトビの民族に関する冊子では、ワカトビのバジャウとブギス、さらに現在の南スラウェシ州との関係を軸にバジャウの歴史を説明しています。学校では「モラ(バジャウ集落)の歴史」の授業もあるようで、不明瞭であったバジャウの歴史が定住化により少しずつ蓄積され始めているようです。また、ワカトビ県は現在、行政により観光化が進められています。野生のイルカが泳ぎまわる海や足元を覗けば魚が泳いでいる不思議な集落は、観光スポットとして大きな価値があると認識されているようです。